2010年8月25日水曜日

Pazzle ring

今から18年くらい前に友人が描いた絵が造形作家の戸村浩の作品に似ているという理由で、東京造形大の先生が友人にプレゼントしたMove Form作品に出会った。自分でも欲しくなって東京都内の美術館のショップとかオモチャ屋などを散々探したが見つからなかったため、自分でプラ板とハトメワッシャーを東急ハンズで買ってきて同じようなものを作製した。YouTubeの映像は折りたたまれた正方形から立方体ができるバージョンであるが、私が作ったのは折りたたまれた正方形から菱形十二面体ができるバージョンである。折りたたまれた正方形が菱形十二面体になり、それがカーボンナノチューブのような円筒形に変形し、さらにそれをツイストすると一瞬で元の折りたたまれた正方形にもどること、さらに菱形十二面体を裏表反対にひっくり返すことができるということに驚愕し、心底惚れ込んでしまった。
それからもどうしても本物を所有したいと希望していた。そんなある日、大学の先輩にそのオモチャを探していると伝えたところ、自分が通っていた桑沢デザイン研究所というところの講師だから会いに行くことを勧められた。ちなみにその先輩は大学の授業とは別に、夜間はその専門学校に通い、さらにその専門学校から近いという理由でNHKで時給4万円でスペイン語の通訳の仕事をしていた。大学卒業後はマッキンゼーに就職した。その後マッキンゼーを辞めて自分の会社を立ち上げたという話はAERAで読んで知った。
話を戸村浩に会いに行く件であるが、電話でアポイントを取ることを試み電話口で断られてしまう可能性が高いと考えた。そうなった場合、本物のMove Formを入手する機会が永遠に失われてしまうと恐れた。そこで当時流行していた「進め!電波少年」と同じ作戦を取ることにした。松村邦洋はこの戦法で正攻法では正面突破を試みると確実に門前払いを受けてしまいそうな数々のVIPやセレブリティーらに「アポなし」で会うことに成功している。
桑沢デザイン研究所に行って守衛に事情を話すと会っても良いという答えが得られ、しばらくすると本人が登場した。「これまで数学者や素粒子の研究者や天文学者には会ったことがあるけど物性関係者はあんたが初めてだ」と言われた。1個4000円くらいで5つのMove Formを購入した。「今度からは佐賀町エキジビットスペースに行ってください」と言われたが、その展覧会スペースは今はもう存在しない。
その後の人生で仲良くなったたちにあげたりしたため、本物のMove Formは昨年の秋の時点で1つだけになっていた。現在のアメリカのグループリーダーが昨年の11月に来日した際に「この菱形十二面体は固体物理の教科書の最初の方で出てくる体心立方格子の第一ブリルアンゾーンと同じ形ですよ」と言ってこの最後の1個を渡した。たったこれだけの理由でアメリカに来ることができたのかもしれないので全く後悔はないのだが、やはり最後のオリジナル作品を失ったことは非常に残念ではある。それ以来再び本物探しが始まったが、今回はおそらく本人が桑沢デザイン研究所を去ってしまったようで非常に難航しそうな感じである。戸村浩はもはや亡くなってしまっている可能性もある。
こちらに来てからこちらの人たちのガジェット好きを見ているうちに、アメリカで売ろうと思ったら結構売れるのではないかと強く思えてきた。今までは人のアイディアをパクって商売するなんて駄目だと考えていたが、先日見た"The Pirates of Siliconvalley"の中で、Steve Jobsが「優秀な芸術家は模倣し、天才芸術家は盗む」という意味のことを言っていたのを見て人のアイディアを盗むのは全然OKということに気がついた。ただし、特許には注意する必要がある。特許権の侵害は法律違反。オリジナル作品に"US Patent ******"と書いてあったことを思い出し、Google patent searchで検索してみた。すると"Move Form"ではなく"Pazzle ring"という名前で確かに特許が出願されていることが分かった。面白いことに似たようなものがたくさんあることが分かった。一番古いものは1878年8月27日に特許化されたものであった。ちょうどほぼ132年前の出願である。もちろん他の「発明(と称するもの)」の中に戸村浩の作品のような天才的なアイディアが含まれているものは皆無であり、確かに似たところはあるが全然別モノである。私は戸村浩がそれらの過去のアイディアを盗んだとは思わない。しかしながら、戸村浩のような天才であっても、ある程度人のアイディアを借用するということは行っているかもしれないということが分かった。