2010年7月29日木曜日

刺青の副作用

ここのところアメリカ人のボスからは毎日「扇風機買ったか?」と聞かれる。日中の最高気温が連日華氏90度以上の日が続いているためだ。日本人の私からすると湿度が低いのでこれくらいなら冷房も扇風機も必要ない。白人の人たちは基本的に暑がりだ。暑い暑いといってどんどん薄着になるもんだから、その下に隠れていた刺青を目にする機会が増々増えてきた。白人の牛乳のように白い肌に対して緑、赤、黒の刺青はコントラストが非常に鮮やかである。ただしデザインの質は最悪。
 それに対して日本のヤクザの刺青はよく見るとデザインとしてはなかなか面白い。学生時代に上野で飲み会があった際に終電を逃し、忍ばずの池沿いの東側の雑居ビルの上の方にあるサウナ(たしか「ラドン温泉云々」という看板があった)で夜を明かすことにしたことがある。「刺青お断り」の張り紙があるにも関わらず、浴室の中には背中いっぱいに大きな鯉の刺青を彫った小指欠損の男がいて、精神薄弱者と思われる男性に対してお説教を垂れていた(今にして思うとそのヤクザ者は「刺青お断り」の「お」と「り」以外読めなかったのかもしれない)。その男はあまりにお説教に熱中していたため、私はその男の背中の刺青を間近でじっくり観察する機会が得られた。
鯉をモチーフにするなんて変わっているなと最初は思ったが、背中の下の方から首筋に向かって泳ぐ図太い鯉の姿は、筋肉の隆起も手伝って力強く、鯉というより龍を思い起こさせた。浮世絵と同じように空間の使い方が独特だと思った。悪趣味も極めに極めると芸術になるのだ直感した。浮世絵は廃れてしまったが刺青は何百年も奇跡的に伝統が維持され続けている。しかも能とか雅楽のような日本の伝統古典芸能のように国の保護など一切うけることもなく。ヤクザ者たちの存在によってその技術が廃れずに済んだのであろう。
 ニューヨーク近代美術館に極道たちを連れて行けば展覧会が開けると確信した。浮世絵のデザインがこれほど広く欧米で受け入れられているのであれば、極道の背中に描かれた立派な刺青も一種の美術作品として認識される可能性が高いと思う。生身の人間に描かれているので立派な「現代」美術かもしれない。
しかしながら、ヤクザ者を日本国外に連れ出すのは基本的には不可能である。CBSのWeb siteでこんなものを見つけた。日本最大の広域暴力団の組長が渡米し肝臓移植を受けたという報道である。通常は暴力団関係者(しかも前科者)は出国はできないが、この組長はアメリカ国内に存在するその組織のフロント企業名を全て米国政府に提出することと引き換えに渡米の権利を勝ち取り、渡米後は金の力で肝臓移植の待機リストの一番下から一気に上から4番目に登ることに成功した。通常は移植まで何年も待たされるという。興味深かったのは肝臓移植が必要な理由。全身に刺青が彫ってあるため発汗できず、肝臓がダメージを受けるという。アメリカ人で大きな刺青を入れる連中はそのようなデメリットがあることを知っているのであろうか。